「未解決事件 (コールドケース)」 マイケル・カプーゾ著

未解決事件(コールド・ケース)―死者の声を甦らせる者たち

未解決事件(コールド・ケース)―死者の声を甦らせる者たち

シャーロック・ホームズソサエティだってー。そんな名前じゃベタすぎる。それよりもっといい名前があるぞ。ビドック・ソサエティでどうだろう。」元連邦捜査官のウィリアム・フライシャーは言った。ビドック・ソサエティは、米国フィラデルフィアに実在する世界で最も閉鎖的なクラブであり、犯罪捜査の第一人者や法医学者などが一堂に会し、迷宮入り事件(コールドケース)を再検証。ズバリ真犯人を名指しするのだ。このクラブは、志願しても入会することはできない。既存のメンバーからの推薦、そしてコミツショナーと理事会の審査で1票の反対があってもメンバーになることはできない。このクラブの名前になったウジェーヌ・フランソワ・ヴィドックはフランスの、暗黒社会の裏表の情報・犯罪の手口を詳細に知っていた犯罪者でありながら、後に国家警察パリ地区犯罪捜査局(パリ警視庁の前身)を創設し初代局長となった人物だ。
ビドック・ソサエティが依頼を受ける条件は3つ。未解決のまま2年以上経っていること。被害者が売春や麻薬取引などの犯罪に関係していないこと、そして警察官などしかるべき法執行官が正式に依頼したものであること。ビドック・ソサエティは、あくまでアドバイザーに徹して正式な法執行機関に捜査を行わせるというスタンスは崩さない。ヴィドックソサエティ創立者ポリグラフ嘘発見器)検査と尋問の世界的権威である元連邦捜査官ウィリアム・フライシャー。世界最大の刑務所サザン・ミシガンでサイコパス(精神病質者)との面談を繰り返すことで犯罪心理分析し研究してきたプロファイラーで「現代のジャーロック・ホームズ」と呼ばれるリチャード・ウォルター。被害者の骨や被疑者の数十年前の写真から顔形模型を復元し事件を解決に導く法医学アーティストであるフランク・ベンダーの3人を中心として、シリアルキラー(連続殺人犯)を追い詰めるのだ。トマス・ハリスの小説「羊たちの沈黙」、最近の日本のテレビドラマ「ストロベリーナイト」などの連続猟奇殺人事件ものが好きな人には、興味深い1冊となるだろう。本書は、あくまで実話であり、実在する人物によるコールドケース解決までの捜査記録である。ビドック・ソサエティの存在が明らかになると、ハリウッドからその映画化権のオファーが舞い込んだらしい。
本書では、人間の闇の部分(ダークサイド)が引き起こした恐ろしい事件をいくつか紹介している。箱の中に遺棄された少年には、暴行の跡があり、数十年経っても身元が判明していない。8人の赤ちゃんを産んだ母親が、すべての赤ちゃんを枕で窒息死させていたショッキングな事件。銀行幹部が家族4人を射殺して姿をくらます。犯人の夫は妻を射殺したテーブルで、いつものように朝食を取っていた。小柄で可憐な女性が、別れ話を切り出した体格の良い恋人を拘束し、拷問したうえで殺害する。カトリックの司祭が少女を暴行して殺害。と、「カッ」となり、はずみでやってしまった、お金を奪うための強盗殺人などの単純なものではない。どれもサイコパスによる通常人の理解を超えた、モンスター達の異常犯罪である。
プロファイラーのリチャード・ウォルターは、人生をサイコパスとの戦いに捧げてきた。そのウォルターの持つハリバートンのケースには非公開のサイコパス研究結果が入っている。何千件もの殺人事件を分析するうちに、最も残忍な殺人が4つの性格型に分類された結果だ。第一は最も多いパワー誇示型で、男らしさ、筋肉、入れ墨を自慢し、そのひとつのサインとして相手の頭部に激しい攻撃を与えたうえ、犠牲者をガラクタのように遺棄する。第二は、パワー回復型で、自分の妄想の世界を生き、その幻想が満たされないといっきに怒りを暴発させる。このタイプは、犯行現場が乱雑である。第三は怒り報復型で、第一のパワー誇示型の一種であるが、パワー充足だけでは満たされず、殺人に快楽を見出す最初の性格型で獲物を追う捕食者のように相手に忍び寄る。そして、最後に最も極悪非道な性格は怒り興奮型だ。このタイプは、お金、パワー、報復といった具体的な目的のために殺人を犯さない。無上の刺激と喜びを得るために人を殺すのだ。つまり、目的でなく殺人のプロセスに意味を見出す。サディスティックな殺人者は、性的快楽に似たものを得るために、投獄または寿命で死ぬまで何度でも殺人を犯すのだ。ドラキュラやオオカミ男伝説を生み出したのは、このようなタイプの殺人者であろう。殺人者の学習曲線は、フェティッシュ、窃視、窃触、被害者の拘束、そして拘束で満足できずにピケリズム(フランス語で切る、刺すと意)そして最後は殺人に至る。更にもっと非道な段階へ進むこともある。屍姦(死体とのセックス)、血抜き、カニバリズム(人肉嗜食)に極まる。まさに、羊たちの沈黙の世界である。
ウォルターは、この中身の公開を恐れている。なぜなら、サイコパスが4つの性格型と殺人者の学習曲線を知ってしまえば、容易に快楽を得る方向に暴走するかもしれないからだ。最近癌で亡くなったフランク・ベンダーを除き、フライシャーもウォルターもまだ健在であるそうだ。繰り返して書くが、本書の内容は実話である。