「サイエンス入門 Ⅰ」 リチャード・ムラー著

サイエンス入門 1

サイエンス入門 1

本書はカリフォルニア大学バークレー校の物理学教授が同校の文系学生向けに行った講義をもとに書かれている。この講義は学生投票によって決められる同校の「ベスト講義」に選ばれているのだ。今回は、文系学生向けのベスト講義で現在の科学・ハイテクをわかりやすく解説したという本書の帯封に強く惹かれて購入した。

著者は次のように言っている。文系学生向けに書かれているが、難しいと感じる箇所は読み飛ばして良い、とりあえず読み進め後から何回も後戻りしながら理解することが本書の読み方であると。昔、文系学生であったボクとしては、本書を読み終えて、「ムムッ!これは難しい。わからないぞ。」という部分は3割ぐらいであった。そして、まだ読み返していない。それでも科学の基本に触れた、「なるほどそういうわけだったのか」という目からウロコ感は十分感じられる。数式はほとんど出てこないが、出てきても読み飛ばして構わない。後で確認問題にチャレンジせよなどという構成にはなっていないのだから。

最近話題の核融合の基本から放射能、重力など講義の守備範囲は広いが、比較的わかりやすく身近なテーマである電力について、ここに紹介しておこう。いきなりであるが、ひとつ公式をあげておく。電力(ワット)=電圧(ボルト)×電流(アンペア)だ。よく耳にする単位であるが、この3つの単位の関係は、ボクは全然理解していなかった。だからこの部分はすごく興味深く読めた。この公式の使い方だが、よくマンションの電気料金請求書に契約アンペア20Aなどとある。これは一体いかほどのエネルギーを表すのかこの年齢までまるで理解していなかった。みなさんも経験があるだろうが、ふろ上がりにドライヤーで髪の毛を乾燥させながら、テレビとDVDをつけて、電子レンジをチンしたらブレーカーが落ちたなんて経験が。ドライヤーの横に1200Wなんて書かれているが、これを上の公式に入れ込んでやる。前提として日本の電圧は100Vという基準があるから、ボルトの部分は100で固定、そうすると1200W=100V×電流となる。これから電流が逆算で簡単に出せる。答えは1200÷100で12アンペアである。これに、電子レンジが600W、テレビがDVDがと加算していけば、契約アンペア20Aを容易に超えてしまうのがWかるだろう。そして、この契約アンペアを超えればブレーカーが落ちるというわけだ。だから、契約アンペアを30や50Aに上げてやれば、一度に複数の家電製品が利用できるというわけである。こんな計算、高校生や中学生で教わっただろうか?ボクの記憶にほとんどないのである。もしかしたら、たまたまその授業で居眠りをしてしまったのかもしれない。

もひとつ大気の中の音の伝わり方について紹介しよう。「シーンと静まった明け方の・・・。や夕方の街の喧騒の中・・・。」という文章をあたりまえのように受け止めるし、書いたりする。確かに明け方は静寂で夕方は喧騒という組み合わせはしっくりくるし、当てはまっていると思うのではないか。これは科学的に説明がつくことなのだ。別に明け方は車や電車が走っていないからとか、夕方は通勤客でごった返しているという理由ではない。これは、音の伝わり方に理由がる。音は、常に真っ直ぐ進むとは限らない。冷たい大気と熱い大気では、熱い大気の方が音は早く進むそして、音は音速の低い方へと曲がるという性質がある。朝は冷たい大気が地表近くにあり、温かい空気は上昇している。つまり音はボールを投げたとき地球の重力で放物線を描くのと同様に上空から地表のほうへ曲がってしまうのだ。だから遠方の音は届きにくい。逆に夕方は日中に地表近辺の大気が暖められているので、冷たい空気は高度のある上空にあり、音は地表から上空へ曲がるよう上昇する。これで、音が遠くまで伝わるのだ。

以上、紹介した2つの話は、既に常識としてご存じの方もいるであろう。文系のボクにとって、比較的わかりやすく、実感できる箇所だったので紹介した。本書は、第二巻もある。文系人間にとって、是非読破しておきたい科学書として非常によくまとまっていると思おうのだ。