「理系の子」高校生科学オリンピックの青春  ジュディ・ダットン著

高校生科学オリンピックの青春 理系の子

高校生科学オリンピックの青春 理系の子

ある著名な書評家のコメントでは、少し早いかもしれないが今年ナンバーワンのおすすめ本かもしれないというのが本書。そこで、amazonの売上ランキングを調べてみた。総合では805位であるが、ノンフィクションでは35位、そして科学読み物としては1位である。本書の内容から少し外れるが、ボクが中学生の一時期に定期購読していた「Newton」という科学雑誌がある。このNewton今でも書店にいくと店頭に並んでいるのでかなりの老舗科学雑誌なのだろう。もっとも売れる時で、毎月30万部だそうだ。一方、米国では「サイエンティフィック・アメリカ」という科学雑誌が有名でこちらは毎月70万部の発行である。これを日本語翻訳したのが「日経サイエンス」で毎月2万5000部とガクリと減少する。現在の日本では、科学雑誌はあまり売れないのだ。本書「理系の子」についても科学読み物としての1位が総合では805位と大きく順位が落ちるのは、この分野の読み手がすごく少ないからだろう。

本書の内容であるが、アメリカで開催される高校生の科学オリンピックで、賞金総額は4百万ドル以上のインテル国際学生サイエンスフェアで賞を争う少年少女の話だ。本書の構成は、単にインテル国際学生サイエンスフェアの模様をレポートしたものではない。物語として読んでも面白い構成になっている。インテル国際学生サイエンスフェアに出場権を得た、複数の子供たちのそれぞれの背景とその驚くべき研究成果を各章で紹介しながら、最後の本戦でどの子供が賞を獲得するのかという、ドキドキ感を持ちながら読み進めることができる。10歳の時に爆薬を製造し、その後核にとりつかれた少年が、インテル国際学生サイエンスフェアでは自家製の核融合炉を製作して乗り込んでくる。10歳で爆弾でその後核融合だから、両親としては最初、どんな恐ろしいことになるのだろうかと、大変子供の将来に不安をいだいたようだ。ネットで検索して、放射能を持つ物質を収集したり、誕生日プレゼントに放射能測定器ガイガーカウンターをわが子にねだられるというのは、怖い。自宅で核爆発でも起きたらと思うと夜も寝られないだろう。暖房のない貧しい家に住む少年は、廃車のラジエターとペットボトルを組み合わせた、ほぼタダで製造可能な熱交換システムを製作し、病気の妹のために自宅にクリーンな暖房設備を設置した。なんと子心温まる話ではないか。他にも、モデル並みの容姿で映画にも出演しているイケてる女子高生が、一夜にしてミツバチが原因不明に大量に失踪する現象である「蜂群崩壊症候群」と農薬の関係の研究を発表する。彼女はモデルで女優でブロンドで、豪邸に住んでいるし、サイエンスフェア会場には素敵なファッションで登場しダンスも踊る。完全に科学オタクのイメージを壊すのだ。と思えば、ある聞いたこともないハイスクール「イーグル・ポイントが登場。イーグル・ポイントとは少年院内高校だった。地球外生命についての研究を発表した彼らは拘束具をつけられ、看守が付き添い逃亡しないよう見張られていた。もちろん他の出場者はそれを知らない。というように出場者は、天才、女優、囚人とその背景が「本当かよ!」というぐらい多彩である。ただし、どの少年少女もインテル国際学生サイエンスフェアで賞を取り、将来の自分の道を切り開こうと懸命なところは一緒だ。多額の賞金は、ある者にとって大学進学のための資金を得るためであったり、自身の研究をもとに起業する資金だったりと様々であるが。

本書読むと、自分が理系or文系なんて区分している場合ではない。もう一度Newtonを思わず読み返してみたくなる。広い話で言えば、日本の未来もここにあるのかもしれない。理系離れが著しい日本が世界の中でそのポジションを下げ続ける原因の一つだろう。科学って面白いよね。と今更ながら思うのだけど。の1冊である。