「ヘッジファンドの懲りない人たち」 バートン・ビッグス著

[rakuten:hmvjapan:11184732:detail]
本書の著者は、こんな風に考えている。ジョージ・バーナード・ショウは「人の賢さは経験により決まるのではない。経験から学ぶ能力によって決まるのだ。」と言った。投資家だろうがヘッジファンド屋であろうが、うまくいく絶対唯一の方法なんかはないと。そして、30年に渡り、モルガン・スタンレーを率いてきた著者の周辺で出会った、優秀で風変りな人々の話を書いているが、それでもケインズを凌ぐほどの人はいないと。

ウォール・ストリート・ジャーナルのレポートによると「現在の富裕な親たちは、億万長者の75%が富を相続していないことから自分の子供に中流家庭の価値観を身につけて育つことを期待している。ちょうど、自分たちがそうだったように。 しかし、親が子供たちを自家用ジェット機で色々なところに連れて行ったり、16歳の誕生日にメルセデス・ベンツをプレゼントしているのであれば、子供たちが中流階級の子供と同様の勤労倫理ややる気を持っていないのは、当然と言えば当然だ。」という。著者周辺の人々は、一儲けしたらネッツジェッツのメンバーになることをステイタスとしている。このネッツジェッツとは、ウォーレン・バフェットバークシャー・ハザウェイに買収されたチャーター機の共有サービスで複数で飛行機1機を保有し、最初に37万5千ドル払えば、後は飛行機のランニングコストだけで6百万ドルもする専用機を共有できるシステムで、ファーストクラスを使って移動するより割安で、しかも目的地近くの空港に直行でき、移動時間を短縮できるので、ビジネスユーザーに大人気となったサービスだ。著者の知合いで5億度の個人資産を持ち、世界を所有するガルフストリーム機(日本での販売店丸紅エアロスペースによると価格2500万ドルで速度マッハ0.9。東京-ニューヨーク間をノンストップで飛べる)で飛び回る人の娘が「パパ。私、誕生日にお願いあるの。飛行機が・・・」。でその知合いはびっくりする。まさか、誕生日に飛行機を買えというのか?いくらなんでもそれは高価すぎるおねだりだと。娘に詳しい話を聞くとそうじゃない。「学校の友達はみんな本物の飛行場から本物の航空会社の飛行機で旅行に行くのに、私は未だ航空会社の飛行機に乗ったことがないから乗りたい!」というもの。この娘は、どうやら自己所有のガルフストリームしか利用させてもらえず、普通の航空会社の飛行機で旅に出たかったである。環境というのは、すごい感覚を育てるのだ。

一方、毎日地下鉄でウオール街へ通うさえない中年トレーダーがある日、いつもの売店で新聞を買うと。未来の日付の新聞が手に入る。ここのところは、そのトレーダーの精神錯乱か。とにかく、そのトレーダーにはある日突然、近未来の株価が予測できるようになるのだ。それから彼は、さえないトレーダーから金融界いちのトップトレーダーにのし上がる。そして最後に彼が手にした未来の新聞には、彼の死亡記事が・・・を始めとする「見える目の男たち」の例が上がられている。そう投資には、少しばかり未来が見える目が必要であり、そんな能力を持った男たちとの出会いが記されている。

とにかく著者のまわりには、ジョージ・ソロス、ジム・ロジャーズ、ジュリアン・ロバートソンや破たんしたロングタームキャピタルマネジメント(LTCM)などを同業者視点で観察して書いている。米国金融業界を垣間見る上で、興味深い1冊だ。