「バイオパンク(DIY科学者たちのDNAハック)」 マーカス・ウォールセン著
- 作者: マーカス・ウォールセン,矢野真千子
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2012/02/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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それで、その「シンプルな考えの人」、「Do It Yourselfしちゃう人」、「型にはまらない人」の話なのだが、次のようなことをイメージしてもらうと良い。ビル・ゲイツが最初ガレージで立ち上げた会社が今日のマイクロソフトになったことは有名だ。サーゲイ・ブリンとラリー・ぺイジもガレージでグーグルを考えついたし、ザッカーバーグだってfacebookを開設したのは大学の寮だった。本書に出てくる人たちは、このガレージのような身近な場所を利用して、「本当!そんなことできちゃうの?」ということを考えている人たちだ。例えば、マサチューセッツ工科大学(MIT)を卒業した23歳のケイ・オールは、自宅のクローゼットをラボ(研究室)に作っちゃうのだ。ケイほどの生物工学の知識があれば、バイオ業界のどんな会社にだって就職できるし、政府施設のバイオ研究所に入ってそこの機材でバイオテロに使える生物兵器だって作れる。でもケイがこだわったのは、自宅でバイオ研究をすること。そのためには、資材をいかに安く手に入れるかだ。ケイは、インターネットオークションサイトで、細胞培養器として改造できる炊飯器とウイスキータンブラーを90ドルで買う。ケイはこれらで、1万ドルはするハイテク温度制御機の代用ができるというのだ。本書に出てくる通称バイオ・ハッカーたちのモットーは、Do It Yourselfでシンプルなコストをかけない資材でバイオ研究を趣味でやろうということ。でも、これで企業してお金を儲けることが夢というわけではない。あくまでも趣味としてのバイオである。知的な趣味にのめりこむギーク(オタク)たちというわけだ。
バイオ・ハッカーたちは、安い機材で多くの仲間がこの世界に参入できれば、イノベーションが起こるはずだという。なるべく多くの人が集合知こそが生物工学にイノベーションを引き起こすと考えている。何も大学や大会社の研修室でなければ、生物学上の飛躍的斑点がないわけではない。いままで、特殊な研究室でしかできなかったコストのかかる遺伝子解析も数万円でできてしまう。これにより、自身の遺伝子を解明したい人は、頬の内側の皮膚や唾液を使って安易にDNAの二重らせんに並ぶ塩基配列を知ることができる。でも、それを知ったところで、現在はまだそれから多くの生物の謎はわからない。でも、「ウチの家系は癌になる人が多い、その原因はDNAの二重らせんに並ぶ塩基配列の欠落したコードを比較することで証明できるのではないか?」とか、そんなことが分かってくのかもしれない。このDNA解析キットをドラッグストアで販売しょうという会社も出てきている。
バイオ・ハッカーたちは、探究心から自宅でDNAをハックする。今までは、コンピューターやネットの発明が世界を変えたが、これからはバイオだろう。そして、そのイノベーションを引き起こすのは、本書に登場するようなギークたちになる可能性は高い。次のビル・ゲイツはやはりガレージラボにいるのだ。