「中国共産党(支配者たちの秘密の世界)」 リチャード・マグレガー著

中国共産党 支配者たちの秘密の世界

中国共産党 支配者たちの秘密の世界

映画「ラストエンペラー」の舞台として有名な明・清王朝の王宮であった紫禁城も、現在は博物館(故宮博物院)になっている。それでは、中華人民共和国の権力者である共産党指導部の中心はどこにあるのかと言えば、故宮博物院に隣接する「中南海(ヂョンナンハイ)」である。中南海紫禁城の西側にある中海と南海という2つの湖を指し、金朝時代、皇帝が夏の離宮として用いていた大寧宮が存在していたところだ。中南海には中国共産党本部と中華人民共和国国務院が置かれ、毛沢東周恩来訒小平ら党や政府の要人の居住区がある。

現在の中国が共産党により治められていることは周知の事実であるが、日本や欧米のように、他に政党があるわけでも、共産党以外の政党の存在が許されているわけでもなく、共産党一党独裁体制であるところが特殊なのだ。共産党とは、政党というより、歴代中国の王朝に近い存在だと考えるべきだろう。この共産党のトップに立つのが9人の最高幹部たちである。2007年の党大会の舞台に並ぶ最高幹部は、全員がダークスーツに赤いネクタイ。そして、全員が漆黒に染めた髪をオールバックにしている。そう、髪を漆黒に染めるのは最高指導者の慣習であり、これをやめる時は引退や投獄されるときなのだ。党大会に集まった報道陣や政府関係者にとって、最も重要なのは最高幹部たちの登場してくる順番だ。この順番こそが、これから5年間の指導部のヒエラルキーを表しているからだ。この時、列の先頭に立つのは、党総書記 胡錦濤であった。

胡錦濤は、中国の国家主席共産党総書記でもある。日本で言えば、内閣総理大臣自民党民主党の党首ということになる。その感覚では、国家主席が主で、総書記が従と考えるのが普通であるが、中国では異なるようなのだ。総書記の方が国家主席より格上だという。中国の指導者は黒塗りの中国製公式車両「紅旗」に乗っている。その車両のナンバーはあからさまに序列を示す意味でのナンバー1とか2が付いている。ある地域で市の市長のナンバーが1だと思うと、2だったりする。そしてナンバー1の車両に乗るのは市の共産党委員会書記長だったりする。つまり、その市のナンバー1は市長ではなく、市の共産党委員会書記長であることを明確に示しているのだ。だから大学でも学長が一番偉いのではなく、学内の共産党委員会書記長が格上なのだ。企業でなら社長ではなく、企業内共産党委員会書記長ということになる。気付いた人もいると思うが、役所にも学校にも企業にも共産党委員会が置かれているのだ。この各共産党委員会が何をしているかと言えば、共産党本部の意向を伝え、思想や行動を統制している。企業においては、通常取締役会が経営方針を決定し、株主総会で社長を選出するが、企業トップの人事権は共産党にあるのだ。企業は、独立した民間としてやっていくか、国有企業になるか選択できる場合があるが、国際的な競争力をつけるには国有企業となった方が資金面やその他の面で有利である。欧米の企業運営においては、経済的判断が優先すべき事項だが、中国においては政治的判断が経済より優先する場合が多いのである。「経済より政治が優先する」という感覚が、資本主義の国とはおおいに異なるところだ。

中国人エリート(役人・経済界など)300人あまりの机の上には、盗聴防止機能の付いた赤い電話が置いてある。これは、共産党本部と直結しており、何人もこの電話が鳴ったら必ず取らなければならない。赤い電話を持つことは、エリートと認められたということでもあるが、それに伴う義務も発生するということだ。企業人の中には、そのメリットとデメリットを比較して、共産党中央に近い位置を占めるより経済的利益を選ぶ人も多いのだ。

2008年香港で中国国営通信社「新華社」のジャーナリストの書いた「墓碑」という本が店頭に並んだ。内容は、毛沢東の政策で4000万人の餓死者がでた大飢饉の詳細レポートである。通信社のジャーナリストという立場を利用して、中国国内の人口統計データを調査し割り出した餓死者数が4000万人である。毛沢東共産党の神的存在だから、毛沢東の政策を否定するこの歴史上の事実は中国では公式に認められていない。(この大飢饉については「毛沢東の大飢饉」フランク・デュケーター著を読んでいただければ詳細がわかるhttp://d.hatena.ne.jp/t-komiya/20111011/1318312227)中国では、毛沢東の取り扱いは微妙だ。毛沢東の全面否定は共産党の否定にもつながるのだから。そこで、毛沢東とは良いこと7割で悪いこと3割をした歴史上の人物というところに落ち着いているようだ。

本書は、中国でしている人、中国をより良く理解したい人の必読書として英国「エコノミスト誌」の推薦を受けている。ボクは中国で仕事しているわけでも仕事をする予定があるわけでもないので、中国をより良く理解しようという方で選んだということになる。