「ニンテンドー・イン・アメリカ」 ジェフ・ライアン著

ニンテンドー・イン・アメリカ: 世界を制した驚異の創造力

ニンテンドー・イン・アメリカ: 世界を制した驚異の創造力

アジアで生まれ、米国に根付き、ヨーロッパ人の名前を持つ男。その男とは「スーパーマリオ」のことである。アメリカの人気ゲームジャーナリストであるジェフ・ライアンが、マイクロソフトの「Xbox」やソニーの「プレイステーション」との攻防などのゲーム史を交えながら、任天堂の成功の秘密に迫ったのが本書だ。

1980年当時アメリカでは、ゲームと言えば25セント硬貨1枚で遊ぶアーケードゲームが全盛期であった。日本である程度の成功を収めた任天堂は、アメリカ進出にあたり、ニンテンドー・オブ・アメリカ(NOA)をたった6人の社員で立ち上げたのだ。NOAはこのアーケードゲーム業界に参戦するために売れるゲームを必要とした。当時の任天堂の社長山内は、ポパイのキャラクターを使ったゲームを投入したかったが、ポパイのような世界的なプロパテの使用権利を得るには、数年の契約交渉が必要であり、あきらめるしかなかったのだ。だが、結果としてこれは幸運な結果となる。任天堂は、悪役のゴリラがヒロインをさらい幽閉する。悪役のゴリラからヒロインを助けようと、ゲーム画面の上部から落ちてくる樽などの障害物をジャンプしながら避けたり、ハンマーで壊したりしながら進むジャンプマンをヒーローとしたオリジナルゲームを製作する。このジャンプマンをゲーム画面で表現しようとすると、当時のゲーム機の性能では、3色以内で表現するしかなかった。ジャンプマンの顔や手にピンク色を使い、ジャンプマンのブーツやシャツには青色を、そして最後の1色である赤色を帽子とズボンに使った。完成したジャンプマンは、まるで大工または配管工に見えたのだ。ジャンプマンにはこの時点では、まだ名前がつけられていなかったが、ゲームの名前は、「ドンキーコング」だ。そして、大工か配管工に見えたジャンプマンは、後に「スーパーマリオ」という任天堂のシンボルともいえるキャラクターとなるのだ。しかし、当時アメリカではシューティングゲームが主流で、大工がゴリラと樽で戦うゲームなんかゲームセンターのオーナーに理解されなかった。おまけにドンキーコングなんてタイトルも、へんてこな和製英語だったから営業にはすごく苦労したそうだ。

その後任天堂アーケードゲームから、日本ではファミコンと呼ぶ各家庭でプレイできるビデオゲームへと軸足を移す。これにより、1回25セントでプレイさせてゲーマーを喜ばせ、何回もゲームしてもらわなければならないアーケードゲームから新たなゲーム形態に変革することができたのだ。アーケードゲームの場合、あまりにゲームが難しいとゲーマーからは飽きられてしまう。何度もプレイしてもらうには、適度の簡単さを持ち、奥行がなく、ゲームを制覇することが可能でなくてはならない。つまり、あまりに多くのステージを用意し、難易度を上げることはアーケードゲームには適さないのだ。だからスパーマリオのような多重なステージ構成や隠れステージもあり、難易度の高いテクニックを何度も繰り返し練習しながら遊ぶゲームには、ビデオゲームとして家庭で長時間取り組める新しい形が必要だったのだ。
ビデオゲームで圧倒的な成功を収めた任天堂にも、やがて強敵が出現する。エレクトロニクス製品の王者ソニーの「プレイステーション」と圧倒的な資金力を持つマイクロソフトの「Xbox」だ。2社のゲーム機は、任天堂の主力機「ニンテンドー64」をはるかに超える高性能だった。ソニーマイクロソフトとは、コアなゲーマーを取り込むのに成功したのだ。一方、任天堂は子供のゲームから、それを卒業した大人のためのゲームに成長できずにいた。その任天堂が、再びビデオゲーム界で首位を取り戻すために投入した新機種が「Wii」だ。Wiiの戦略はプレイステーションやXboxと同じ、高機能争いの土俵には乗らないことだった。ゲームを楽しむ顧客は、夜中の2時にゲームをしているコアなゲーマーだけではない、ターゲットはもっとライトな、これまでゲームに関心のうすかったファミリーや女性層としたのだ。そして、ワイヤレスのモーションコントローラーによる直観的な操作を最大の武器とした。結果は、周知のとおり、Wiiは新たな顧客層を開拓して、再びビデオゲーム界の王者に返り咲いたのは記憶に新しい。

現在の任天堂は、また新たな強敵を迎えて苦戦をしている。一時3万円を超えた株価も現在は1万円近辺まで大幅に低下した。スマートフォンタブレットPCなどでは、無料ですぐにダウンロードできるゲームが手に入り、数千円のお金を払ってゲームを購入させてきたゲームメーカーを圧迫している。しかし著者は、任天堂の未来に希望を捨てていない。それは、十字ボタンとモーションコントローラーを統合した次世代ゲームであり、そこで任天堂は再びスーパーマリオのキャラクターを効果的に投入してくるだろうと予想している。