「突撃!ロンドンで家を買う」 井形慶子著

突撃! ロンドンに家を買う

突撃! ロンドンに家を買う

著者は、長年イギリス暮らしをテーマしたインテリア雑誌「ミスターパートナー」の編集を手掛けて来た女性だ。ある時、取引のある銀行員から、リーマンショック以来の世界不況の影響で英国ポンドが値下がりをしていると。以前1ポンド200円だったのが、この時118円と為替に興味がなかった著者もおおいに心動かされる。(ちなみに2012年1月時点でも1ポンド120円程度である)そこで、仕事柄英国への出張も多いことから、このタイミングでポンドを思い切ってまとめた額で買うことにする。所有マンションを売却し、老後の資金の貯金など所有する円のほとんどをポンドに変えたのだ。それほど多額のポンドを購入した著者の目的は、英国に憧れの不動産を購入することにあった。

おりしも英国は、ポンド安に加えて不動産の価格も下落していたのだ。著者の生活は、インターネットで手頃な不動産を探す毎日となる。理想の場所は、ロンドン北部のハムステッドである。不動不況のロンドンとはいえ、人気のハムステッドの物件は、非常に高額である。なんと18㎡のワンルームが34万ポンド(5100万円)だ。ロンドンの物価は、東京を超え世界一であることは知っていたがこれほど高いのかと驚きである。ハムステッドとは、いかなる場所かと言えば、首都ロンドン北西部のカムデン特別区に属し、高級住宅街として知られ、北部にハムステッドヒースという公園が広がる。有名な文学者が暮らした家やジョージア朝時代の邸宅があるところだと。東京で言えば、渋谷区松濤あたりであろうか。そこで、松濤の中古マンションのワンルームの相場を調べてみると、2000万円もしなそうである。もっとも、ズバリ松濤という物件は少なく、代々木などの周辺地域のおよその相場である。

著者は知り合いのロンドン在住日本人不動産屋オーナーに連絡を取り、不動産購入のアドバイスを請うのだ。不動産屋オーナーは「ロンドンは不動産不況で、購入には今が最高のタイミング。通常では不可能な物件が割安で市場に出ている。しかし、ロンドンの良い不動産物件の流通は早い、東京と異なりロンドンでは不動産は慢性的に不足しているので、常に売り手市場だ。」と、ロンドンでは不況とはいえ過剰な不動産供給とはなっていないので常に売り手市場なのだ。そして、長期的にみて日本の不動産バブルのように、1億の家が数年後に半分の価値になることはない。むしろ数年後に2倍になるというケースも多い。だからこそ、世界の富豪もロンドンの住宅を買い漁るのだという。その中でもハムステッドは人気の高級住宅地である。

ハムステッドの街は一歩中に踏み込みと、カントリーサイドの村を思わせる。道が曲がりくねり、不規則な形の建物が迷路のような路地に立ち並んでいる。著者の希望は、自らが将来住む場所とし、また雑誌編集のロンドン拠点となるようスタッフの数人が泊まれる2ベッドルームにリビングなどがある4500万程度の物件だ。そして、ここが重要なのだが住居につながるテラスや中庭が付属し、そこでささやかなガーデニングが出来るような家で、それこそ英国らしい落ちついた暮らしを理想としているのだ。インターネットで理想の家を求めて検索し、「ここ広い割に安いし、見た目もすごく英国的」と喜んで、英国在住の不動産屋オーナーに現地確認をお願いする。ところが、その返答はことごとく「その物件は絶対ダメ!とてもおすすめできない。」という返答ばかり。一体何が悪いのか、日本の住宅事情しかイメージにない著者には当初なかなか理解できない。

英国は想像どおりの階級社会である。だから、出身階層により住居地域がかなり限定されているという。英国人は初対面の人を評価するのに、その人の英語のナマリと居住地区を聞くことでほぼその背景を知ることができるという。著者が検索して気に入った割安物件は、移民が多い地区であり、近辺に便利な商店があったとしても治安が悪いく、日本人が住むにはお勧めできないというのだ。このような地区で1階中庭付き物件など買おうものなら数年以内に100%泥棒に入られると断言されてしまう。また、移民など低所得者が多い地区では、マナーも悪く管理も悪く修理費などの余計な経費がかかることも注意される。ハムステッドは、上流階級や外国のエリートビジネスマンが住む街で、そのような心配は一切ない。ロンドンの不動産は「とにかくロケーションが第一であり、内装などは後からいくらでも変えられる。」というのが大原則なのだ。

例えば、築数100年の建物は、まず屋根の煙突の数を見ろと。煙突の数が多いということは、暖炉があり、暖炉は建築費がかさむことからその建物はコストがかなりかかっている。したがって、壁や床などの建築材も良いものを使い、丁寧に建てられていることが多い。そう、ロンドンで煙突の数はステイタスなのだ。

著者は最後に理想の住所を手に入れることができるのか?著者のロンドンでの不動産購入体験記は、その日本との違いに多いに興味が持てる。手元に多額のポンドがあったなら、ロンドンで理想の住居を手に入れたいと思わせる1冊になっている。