「新白河原人」 守村大著

新白河原人 遊んで暮らす究極DIY生活

新白河原人 遊んで暮らす究極DIY生活

本のタイトルは、ちょっとふざけて「新白河原人」だ。それもそのはず、著者は週刊誌モーニングに連載を持つ漫画家である。イラストも多く、文字サイズも大きいので秋の夜長に、一晩で読み終えることが可能な本に入るであろう。タイトルのとおり、著者は古代より東北の玄関口であった「白河の関」で有名な福島県白河市に、東京ドーム1個分の土地を購入し、移り住む。電気も水道もガスも通じていない、素の土地だと著者はいう。この土地を文字どおり自ら開墾する原人として、ログハウス、サウナ小屋まで建てしまうまでの記録の書なのだ。

都会を捨て山里に移り住み、自然から糧を得てスローライフで暮らす。こういうのは、男なら誰しも心の片隅にチョッと夢見ることがある。たぶん。でも、実際にやる人はそうはいない。著者は、もともと運動不足で不健康な漫画人生を歩んできていたと。それなのに突然ログハウスを建築することになる。広さは1万2千坪で、坪単価は500円の土地だから、合計で600万円だ。電気も水道もガスも通じていない、素の土地は安いのだ。しかし、森林をチエンソーで伐採、スズメバチの襲撃に恐怖しながら下草刈りに1年を費やす。その後、中古のユンボを90万で購入。ユンボで切り株を引き抜き、ログハウスの建設地を整地する。夢中で雨の中、ユンボで泥をかき分けて整地をしていたら、キャタピラごと泥沼にはまりどうにも動かなくなったユンボから泥沼にダイビングして脱出するという失敗も犯す。建築作業の素人だから雨の中の整地作業は禁忌であることを知らなかったと。もちろんボクも知らなかったのだが、晴耕雨読ってことか。

著者は地元の木材協同組合で1本500キログラムにもなる原木を60本購入。お値段合計60万円也。この原木を長斧(ちょうな)や鏟(せん)といった道具で、ガリガリひたすら引っ掻いて皮むきをし、乾燥させる。これが大変な作業だ。1本の原木の皮を剥くのに半日はかかる。著者は体重が10キログラム以上減ったことを報告している。

丸太となった原木をログハウスと組み立てるのに、ここでまたユンボが大活躍。ユンボのクレーンで丸太を吊るして組み上げていくのだ。昔、作業用ロボットを原型とした「戦闘メカ ザンブングル」というアニメがあったが、開拓者としてユンボに乗れば気分はこれだろう。田舎の家の車庫にスポーツカーと並べてユンボと軽トラが欲しい。

本書の前半部で丸太小屋は完成する。後半は、著者が妻と犬の二人と一匹が、この丸太小屋で半自給自足生活が綴られている。著者の食費予算は年間20万だ。そのためには、自前の農園で野菜を作り、鶏を飼育して卵を収穫、そして燃料となる薪は山から伐採するのだ。野菜は無農薬で飼料も自ら調達で原価はタダ同然。野菜は地元の産直販売所で、1単位100円で手に入るため、飼料を購入していては、かえって高くつくのだ。それほどまでに、農業のプロが作る野菜は原価が抑えられているということだ。鶏の方は卵が毎日予想を超えて生産されるので、一人あたり責任消費量2〜3個で食べ飽きるほど。著者の朝飯の定番は卵かけご飯。毎日そんなに卵を食べて病気にならないかというと、著者はますます元気という状況。そして、卵を産まなくなった老鶏は絞めて食肉とするのは自然のなりゆきだ。薪は広い森林を33区画し、毎年伐採する区域を変えていく。この区画を一巡する頃には33年経過しているので、最初に伐採した区画の森林が復元しているというわけだ。そして、著者も80歳というわけで、半永久的に無料の燃料が手に入る。ただし、ひと冬越すための薪を作る作業に2か月もかかるそうだ。

本書の貴重なところは、漫画家という建設や農業のド素人が、実際に開拓者として未開地を切り開き、自作の丸太小屋で自給自足したという体験に基づいているということにつきる。それは、まさに奮闘の日々でもあるが、どこか楽しそうなのだ。本書読んで、自らログハウス建築を試みるのはどうかと思うが、「畑で野菜でも作るのは悪くないな」と思わせる一冊だ。