「つながり」を突き止めろ 安田雪著

「つながり」を突き止めろ 入門!ネットワーク・サイエンス (光文社新書)

「つながり」を突き止めろ 入門!ネットワーク・サイエンス (光文社新書)

著者は四半世紀に渡りネットワーク・サイエンスを専門としてきた。著者は、友人・知人を見ればその人を理解でき、その人の行動がある程度予測できるという。人間の行為や嗜好、信条を決定するのは、性別や年齢、学歴や出身ではなく、その人が誰とともに過ごしたか、またどのような人に取り囲まれているのかが重要なのだというのが、この学問の哲学である。

CIAは、2000年の春にマレーシアで開かれたテロリストの会議に出席したナワフ・アル・ハズミとハリード・アル・ミフダルというアルカイダ関係の容疑者を泳がせ、彼らの電話・メール・銀行入出金から人的ネットワークを追求した。その結果は、彼らとダイレクトにつながる容疑者17人、さらにもうワンステップ先で間接的につながる50人の容疑者を抽出した。この2ステップまでのリンクの中に、ペンタゴン世界貿易センタービルに突っ込んだハイジャック実行犯すべてが入っていたことが後に判明するのだ。合衆国の住民の中からテロリストを探し出すのは、わら山の中から針を探し出すのにも等しく、このようにスターティングポイントとなる人物を間違えなければ、ネットワーク検索は非常に強い武器になるのだ。

社内メールの記録を使った面白いネットワークをつくることも可能だ。社内メールには、受注・資料・連絡・遊びなど様々な要素のメールが混在している。例えば、「お願いします」という言葉とその活用形が含まれるメールを抽出すると、業務で連絡を取り合う人のネットワークが浮かび上がる。同様に「ゴルフ」や「合コン」という言葉で、遊びのネットワークを拾い上げることも出来る。これらのネットワークから、仕事を効率的に行うためのキーマンが誰かとか、メールの文章から仕事が出来る人を見極めることなども可能だ。仕事の出来る人のメールには、「ちゃんと」「スムーズだ」「有意義だ」などの前向きな言葉が多く見られ、逆に仕事が出来ない人のメールには「大変だ」「厳しい」「面倒だ」などの消極的な言葉が多く見られるという。思わず、自分のメールを振り返ってみようかと思った。社内メールの記録を使って、社員を管理することは簡単そうだが、例え社内メールでもその内容を読み取ることの問題、はプライバシーの侵害にあたるかどうかで議論が分かれるところであろう。

インターネットの世界では、有名サイトに多くのリンクが張られ、膨大な無名サイトにはほとんどリンクが張られていない。著者は、初期のmixiから研究目的でデータを提供してもらい、これらのデータからSNSも極端な勝ち組が少数、中堅どころがそこそこ、圧倒的大多数が負け組というネットワークの紐帯の性質「スケールフリー」があてはまるか検証する。「スケールフリー」とは、世の中に存在する関係は、中心にいくつかのハブがあり、その周辺に関連する事象がくっついた構造をしているという説だ。mixiのデータによると友人を1人だけしかもっていない人は、全体の23.6%、友人が2人以下の人が35.7%、友人が3人以下の人は44.3%である。全体の4割程度は友人を2〜3人程度しか持っていないことになる。300人を超える友人を持っているのは、わずか0.027%なのだ。これはmixiのようなSNSにもスケールフリー性があることを物語っている。

本書では、自らの主体的行動や他者への関与はコントロールしやすいが、だが反対に他者から受け取る行為・援助・情報は自分で簡単に増やせないという。だから情報発信も重要だが、それ以上に自分自身に向かってくる関係の量と質が重要なのだとまとめている。インターネットの中でも人気者になるのはリアルの世界と同様に難しいということか。