「ウィキノミクス」 ドン・タプスコット、アンソニー・D・ウイリアムズ著

ウィキノミクス

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本書は、テクノジャーナリズム「WIRED」誌のすすめる新教養学部必読書というくくりから探し出してきた。今さら、プログラムコードを書くなんて芸当はできないが、新しい技術にはある程度反応しておきたいという、ボク自身の年齢と好奇心の狭間で、つい手に取った1冊だ。このWIRED新教養学部必読書であるが、理工系学部生は読んでいて当然というものなのだろうか。

さて、本書の内容は従来からの階層型指揮命令系統より、WEBを通じた無数の人の共同作業で、革新・業務効率化が起きている驚くべき事例をいくつか挙げてウィキノミクスという現象を解説しているものだ。

小さな金生産会社カナダのゴールドコープ社は、これまで50年に渡り掘り続けてきた鉱山が終焉をむかえようとしていた。ゴールドコープ社は、新たな金の鉱脈を発見できなければ、ほどなく倒産という瀬戸際にあったのだ。そんな時、同社のCEOマキューエンは、
「ザ・ゴールドコープ・チャレンジ」と呼ばれる鉱山業界の常識を180度覆す賭けに打って出たのだ。
ザ・ゴールドコープ・チャレンジとは、 ゴールドコープ社の持つ鉱山のデータをインターネット経由ですべて公開し、このデータをもとに金がどこに埋蔵されているのか、世界中の地質学者たちに探してもらおうという試みだ。もちろん無料ではなく、賞金総額は57万5000ドルで1位賞金は10万5000ドルというもの。そもそも自社の鉱山の情報(=企業機密)をすべて公表するというのはまずあり得ないことで、このチャレンジに鉱山業界は驚愕した。
その後、世界中から地質学者だけでなく大学院生、数学者から、人工知能、コンピューターグラフィックなどを利用したあらゆる解決方法が提示されたのだ。そして、その結果により発見された金はなんと250トンにも上るのだ。これで倒産しかけていたゴールドコープ社は、いっきに90億ドルの業界の巨人へと成長した。

もうひとつ面白い話を挙げよう。古代アレクサンドリア人はこの世の人知を全て集めて、ひとつの建物に収納しょうとしたのだ。歴史、文学、科学、戯曲に関する書物を50万冊も集めてしまったのだ。すごい!では、現代はどうか。人類が出版したものは書籍が3200万冊、記事やエッセイが7億5千万本、楽曲が2500万曲、画像が5億枚、映画が50万本WEBページが1000億ページ・・・とにかく膨大だ。そして、古代アレクサンドリア人がやったことと同じことをやろうとしているのがグーグルだ。グーグルとこれに協力する大学機関が、書籍をスキャンしてビットに変換している。グーグルは現代のアレクサンドリア人を目指しているのだ。

本書は、ウィキノミクス産業革命に匹敵する大きな変化だという。今後はコラボレーションを取り入れて生き残るか、これをせずに消え去るか二者択一の時代だと。階層型指揮命令系統により優れたリーダーのもとで、組織の中でその知的資産を閉鎖的・効率的に活用してきたが、これからのキーワードは「オープン性」、「集合知」になる。しかし、旧世代が、これまでの価値観を変えるのはケッコウ難しいのだろう。本書を読むことで、ウィキノミクスの感覚の一端に触れることができるのだ。