「ヤバい社会学」 スディール・ヴェンカテッシュ著
- 作者: スディール・ヴェンカテッシュ,望月衛
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2009/01/16
- メディア: 単行本
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著者はロバート・テーラー・ホームズで戸別調査を始めてしまう。ドアをトントンと叩き、出てきた住人に「あなた貧しい黒人に生まれてどんなふうに感じますか?」「1.すごく良い、2.まぁまぁ良い、3.ふつう、4.あまり良くない、5.最悪である、のうちどれに当てはまりますか?」などと、もちろん住民から相手にされない。おまけに、団地にたむろするギャングに、対立するグループの偵察員と疑われ軟禁されてしまう。そこで出会うのが通称JTであり、彼はロバート・テーラー・ホームズを牛耳るシカゴのギャング組織ブラック・キングスのリーダーである。実は彼、ギャングリーダーなのだが大学出である。その才覚によりブラック・キングスで出世街道まっしぐらの裏社会エリートだ。それでもって、JTは著者のアフリカ系アメリカ人の調査に共感というか、個人的な興味をもってか、著者を気に入って、この裏社会への出入りのドアを開けてくれたのだ。このギャングの仕事(「しのぎ」というらしい)って、「どんな感じ?で、どのくらい稼げるの?」を調べ始めるのだが、内容が内容だから簡単にいかない。ヤクの売人がいくら稼いでいるとか、ギャングのメンバーの給料明細、ショバ代なんか、はいどうぞと見せて貰えないし、そもそも経理帳簿が備え付けてあるわけでもない。ヤバイ情報だから、書面に残さずほとんどリーダーのJTの頭の中なのだ。JTの部下に、二人の幹部がいる。治安担当のプレイスと管理担当のT・ボーンだ。プレイスは出入りとかメンバーの処罰とか、T・ボーンは経理とか事務方ですね。どうやら、JTの稼ぎは1000万クラス、二人の幹部が300万ぐらいらしいのだ。幹部でこれだから、末端の兵隊はほとんど稼げない、それでギャングがマクドナルドでバイトしていたり、ママと同居していたりするのだ。命をかけてヤクを売捌いてこの年収では割が合わないのだ。そう、ギャングで高級外車を乗り回し、でかい家に住むなんて、ほんの一握りの上層部だけなのだ。そのへんの経理明細は、後に逮捕され刑務所送りになってしまうT・ボーンから著者が秘密の帳簿ノートを譲り受けることで判明していく。
社会学では、著者が最初やろうとしていた調査にようにアンケートによる調査対象の比較を行うのが常道のようである。しかし、今日はこのギャングにインタビューし、明日はそのライバルのギャングにインタビューというわけにはいかない。ギャング社会をウロウロしていたら、撃ち殺されかねない。著者は、まれにほんもののギャングに受け入れられ、その内幕を学者の視線で冷静に観察できる好機に恵まれた。そんな貴重な体験と調査データに注目したのが、経済学者スティーブン・レヴェットだ。裏社会の数値的解説は、このスティーブン・レヴェットの「やばい経済学」を読むと良い。ボクがこの「やばい社会学」を読もうと思ったのも、「やばい経済学」が面白かったからだ。本書は、「やばい経済学」のスピンアウト版だと思えばよい。