「歴史を動かす」 小島毅著
- 作者: 小島毅
- 出版社/メーカー: 亜紀書房
- 発売日: 2011/08/02
- メディア: 単行本
- クリック: 7回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
この竜馬の人物像はどこからきたのか?ボク自身もそうなのであるが、中学生の頃、夢中で読んだのが、司馬遼太郎の「竜馬がゆく」である。教科書の無味乾燥な歴史知識を司馬氏の小説は、日本がその過去においていかに魅力的人物を持っていたのか、日本が素晴らしい国であり、太平洋戦争で敗戦した日本は、本来の日本史の中では異質で鬼胎であると語って聞かせるのだ。司馬氏の歴史へのスタンスは、歴史を近視眼的に見るのではなく、ある程度の時を経て熟成させて俯瞰していくというものだ。司馬氏は小説を一つ書くのに、トラック1台分の書物に目を通すとか。その膨大な資料を整理し、小説の主人公を日本人として理想的な人物像として肉付けしていくのだ。あたかも、司馬氏がその人物を実際に見てきたかのようなイキイキとした描写で。もうひとつ、この理想的な日本人像を作ってきたのはNHKの大河ドラマであろう。毎年、どの題材が選ばれるか楽しみにしている人も多い。
本書では、この坂本竜馬は明治維新にそれほど大きな影響は与えていないと言う。竜馬ファンには驚きであろう。明治初期ですら、ほとんどの日本人が坂本竜馬なる人物を知らなかったのだ。それでは、誰が坂本竜馬を後の世に伝えたのかと言えば、土佐勤王党の生き残りで明治政府の内閣書記官長となった田中光顕であるという。ある時、皇后の夢の中で枕もとに立った白装束の武士がいた。それを聞いた田中は、「おそらくそれは、私の昔の知り合いで、これこれこういう者で坂本竜馬という人物である。」と語ったのだ。という話しから、海援隊を創設したのだから、日本海軍の守り神だということになりだんだん広まっていったらしい。だから、ボク達が愛する坂本竜馬の人物像は完全に司馬氏により作られたものだということだ。
司馬氏の歴史小説は今読んでも、土佐言葉で言えば「まっこと面白い」である。だが、本来の歴史として冷静に眺めれば、だいぶ作られた感があるのは確かである。もちろん、そんなことはウスウス皆が感じていたことであるが。これをもって日本史というものを考えてはいけないのである。本書は、東アジアの一部としての日本という司馬氏違う俯瞰した視点で、竜馬の話しから、織田信長、足利義満そして直江兼継などへ展開していく。司馬氏の小説が熱い日本史なら、こちらは冷静な日本史である。