「2100年、人口3分の1の日本」 鬼頭宏著

2100年、人口3分の1の日本 (メディアファクトリー新書)

2100年、人口3分の1の日本 (メディアファクトリー新書)

「現在、日本が抱える問題の多くは、将来の人口減少とそれに伴う労働人口の減少を大きな原因としている。だから、今後の日本の人口減少について基本的な知識を整理しておくことは意義深いと考える。」などと、冒頭から硬いことを書いてみて、それはそうなのだが結局のところ、日本の人口減少が前例のない規模なら、ボクらの生活している社会はどんな影響を受けるのだろうか?また、本当に人口減少はそんなに大変なことなのか?「人口が減れば、朝の通勤ラッシュもなくなり、高速道路の渋滞もなくて、良いんじゃない!」と、つい目先のメリットに目が行ってしまうボクにとって、さほど大問題という実感が湧かない。「日本はこの先の近未来どうなるんだろう?相当ヤバイ?何が?」ということを興味本位で、スパッと新書版で読んでやろうというのが、本書を選らんだ本音である。これを読んでおけば、「あぁ〜、それは日本の人口減少という根本的問題を考慮に入れて見込むべきでしょうね。」なんて、意見が吐ければ良いのである。

最近の日本の人口は1億3千万人ぐらいでしょうか?これが、100年後に計算にもよるが4000万人ぐらいまで減少してしまう可能性があるのだと。単純に言って、100年で1億人近い人数がいなくなるということだ。その頃、ボクは多分既にこの世にいないのであるが、この数字は衝撃的だ。「そんなに減るのかよ!」という感じでしょ。この4千万人という数字だが、過去の日本の人口推移の中では、幕末時期と同程度らしいのだ。坂本竜馬とか西郷隆盛とかの維新の英雄は、4000万人分のいくつかの確率で出てきたということになり、現在1億3千万人もの人口があるなら、そういう英雄が確率で言ったら3倍くらい出てきても良いのだと思う。と少し、話が横道にそれそうになるが、そういう視点でみれば、日本の人口は幕末期に戻るだけなのだが、人口の増減というのは大幅な波があり、そもそも、そういう波長の中で起こる自然の現象で、今が特別異常ということでないのかもしれないと、感じちゃうわけです。歴史の長いスパンで見れば、ここ数十年から100年の短期間を切り取って、局所的に眺めて異常事態と感じているという見方もある。でも、人間は100年と生きられないものだから、ボク自身とか、その子供や孫という、お互い顔を見て、個人的な感情を持たざるを負えない、限られた時間的範囲として見れば、やっぱり大問題でしょう。なのにボク個人として、「100年後はこの世にいないかな」と思うと、少し後回しに考えてしまう長中期的な中途半端な時間単位でもあるという、捉えどころがないという面もある。

経済学者トマス・ロバート・マルサスの「人口論」によれば、①食糧(生活資源)が人類の生存に必要。②第二に異性間の情欲は必ず存在する。と前提で人口というものの原理を考えているのだ。人口は制限されなければ幾何級数的に増加する。しかし、食料の生産はこの人口の幾何級数的な増加に追い付けない等差級数的に増産される。やがて、食料生産が人口増加を支え切れなくなると飢餓が起こり、それ以上の人口増加が停止するのだ。食用生産は、開発を通じて増加するが、追加できる耕地面積や労働生産性の効率化には限界がある。耕地面積はその国の国土に制限され、これを超える耕地面積は生み出すことは海面を埋め立てるぐらいしか手段が無いから、もちろん制限がある。地球規模での人口増加には、やがて歯止めがかかるということだ。でも、食料生産性を上げるために、国土の拡張行動が、戦争を引き起こし、その戦争による戦死者による人口減少ということもある。人口増減は、やはり地球という人類が生存していくに不可欠な限界のある資源の争奪により、長期的なスパンで増減を繰り返すことが自然の摂理であるということか。そのように考えていくと、遺伝子組み換え技術による作物単位あたりの収穫量の増加という試みは、耕地面積を広げるという行為に等しい効果がある。だから、人類の進むべき方向性として、遺伝子操作の倫理性やその危険性は問題視されるものの、やっぱり良いか悪いかということは別にして、止めることは出来ない進化の方向なのだとも思う。

現在、人口が多い順に国を並べると中国→インド→アメリカ→インドネシア→ブラジルとなる。これが20年後ぐらいにインド→中国→アメリカ→インドネシアパキスタンと中国とインドの順位が入れ替わり、パキスタンが5位に登場する。中国の人口が多いことは周知のことであろうが、20年後にはその1位の座がインドに後退するのだ。中国は1979年に始めた一人っ子政策で人為的に人口抑制をした結果、今後いびつな人口構成問題に悩まされるのだろう。子供は夫婦一組に対し一人しか持たないとしたので、密かに産んだ子供が戸籍外で生まれ、成長して「黒孩子」(ヘイハイズ)と呼ばれ、教育や行政サービスを得られないという問題があるし、後継ぎとして男子が優先されたせいで、女子の出生率が低下し、同年代の男女比率において男子が多く女子が少ないという現象から結婚できない男子が100万人ぐらいいる。地球規模での人口増加を促進しているのは、主に発展途上国で、先進国は人口を減らしている。アメリカぐらいが例外で、これはヒスパニック系の移民が増加しているからで、本来のアメリカ建国当時からの主流WASPはその数を減らしていっているのだ。アメリカも将来その国民の中身が大きく異なってくるのだろう。

というように、人口問題を考えていくと、遺伝子工学とか歴史、そして政治・経済とあらゆるもの関連付けられて興味の枝が広がっていく。「さて、どの分野の本を読もうかな?」となったとき、最後に人口問題という木の幹につながっているという感覚は体系的な頭の中の整理にとても役立つのではないかと考えた1冊でしたね。