「チエンジング・ブルー」 大河内直彦著

チェンジング・ブルー―気候変動の謎に迫る

チェンジング・ブルー―気候変動の謎に迫る

東京に暮らしていると、最近の夏は昔よりだいぶ暑くなったし、冬は暖冬で雪も珍しくなったと感じる。人間が排出する二酸化炭素の量が増え、これが地球全体の温暖化につながっているから、これを削減しようという話題はよく耳にする。それでは、この温暖化がこれ以上進むと、地球がどうなっていくのだろうか?心配である。本書は、大気中の二酸化炭素が温暖化の原因であるというこれまでの視点を変え、その原因を海洋に向けているのだ。

地球は太陽からのエネルギーにより比較的温暖な気候を維持している。太陽からの入射エネルギーと地球から宇宙に放射されるエネルギーがほぼ均衡していることで、気候も安定しているのだ。ただし、地球を部分的に見ていくと、低緯度域ほど太陽からの入射エネルギーが多く、高緯度域ほど放射エネルギーが多い。つまり、そのままだと低緯度域は、どんどん暑くなってしまい、逆に高緯度域はどんどん寒冷化していってしまうことになる。しかし、実際にはそうなっていないのだ。低緯度域の入射エネルギーが高緯度域へ再分配される仕組みが存在し、それは大気が担っておらず、海洋の熱輸送量が大きな役割を担っているのだ。

海洋の熱輸送量とは、海洋深層流のことだ。この仕組みは壮大で、本書を読み進めていく中で自然の偉大な仕組みに魅了される。海洋には親潮黒潮などと呼ばれる海流があることは、学校の授業でも教えられるが、これらは海洋の表層分のたかだか数百メートルにすぎない。海洋は表層流の他に、深層流と呼ばれるまったく異なる流れが存在する。そして、この深層流はある限ら得た地域でしか形成されないのだ。深層流は、北大西洋グリーンランド近辺を出発し、大西洋を南下、南極海を東進、太平洋を北進して終わるというコースをとる。この動力となっているのが海水の塩分濃度なのだ。メキシコ湾流が降雨量が少なく蒸発量の多いサハラ砂漠の西側海域を通過する際に、水分が蒸発して塩分濃度が高まる。そして、グリーンランド海で北から流れ込んでくる北極海起源の低塩分の海水とぶつかりあうと、塩分濃度の高いメキシコ湾流は数千メートル下の深海底へ雫のように落下していく。その深層流は1秒間に1500万立方メートルに達し、1年で500キロメートル四方に拡がっていく。この拡がりが北大西洋から北太平洋に及び、これを相殺する流れとして表層水が同量、太平洋から大西洋に移動することでひとつのサイクルをつくりだしているのだ。

二酸化炭素量が増加し、地球が温暖化することで高緯度域の氷山が溶融してしまうとこの深層流サイクルに致命的な打撃を与える。これはどういうことかというと、深層流はその形成にあたりグリーンランド海でのメキシコ湾流の塩分濃度差による深海底への落下がその動力源なのだが、溶融した氷山の水がメキシコ湾流に流れ込むことで、その塩分濃度が薄められてしまい、深層流サイクルの動力が失われることになる。そして、深層流サイクルが停止すると、地球上の熱エネルギーの再分配機能が失われて高緯度域の地域はより寒冷化する。つまり、氷河時代がやってくるのだ。

二酸化炭素量の増大が地球を限りなく暑くしていくと誤解していたのだが、深層流サイクルを停止させ、逆に氷河期へ突入させるとは、まさに驚きの予想である。我々の生きている時代は、地球の氷河期と間氷期の変動の狭間に過ぎないのかもしれない。だから、根本的には人間の力でこれをコントロールすることはまだまだできなのだろう。ただし、人間の排出する二酸化炭素量がこれを早めたり、急激に起こす原因になることは否めない。