「生命保険のからくり」 岩瀬大輔著

生命保険のカラクリ (文春新書)

生命保険のカラクリ (文春新書)

我が国の生命保険会社の年間保険料収入は30兆円を超える。これはGDP500兆円の1割に近い巨大ビジネスである。そして、この収入をこれまでピーク時50万人と言われる生保の営業マン・レディがGDP戦略で売ってきたのだ。Gは「義理」、N「人情」、P「プレゼント」の略である。それにしても、人生で2番目に高価な買い物と呼ばれる生命保険であるが、内容を良く理解しないで購入してしまうケースが多いのではないか。本書の著者も社会人となった当初、友人の紹介で颯爽とした見栄えの男性営業マンと深く考えずに生命保険契約を締結したという。著者もコンサルティング会社に勤めるバリバリの社会人だったから、それなりに資料を調べ数値的な質問をしたりして、この営業マンとやり取りした上での契約だったが、本当のところ保険内容についてよく理解できなかったという。そして、その後その保険会社のコンサルティングを手掛けた時に、その保険会社の営業マニュアルを読む機会があったのだが、その内容はまさに颯爽とした営業マンと自分自身のやり取りもマニュアルに載って対応に基づくものであることを知り愕然となるのだ。

保険会社の収益源は、「シサ」、「リサ」、「ヒサ」と呼ばれる。シサとは、死亡や発病の予想確立と比べ、実際に支払う保障の額との差額であり、予想確立より発生が低ければ差額が保険会社の利益となる。リサとは、預かった保険料の運用利益または損失であり、「利差益」、「利差損」とも呼ぶ。最後のヒサとは、事業利益に必要な費用を保険料に盛り込んでいるが、これを経営努力で削減して利益を出すことである。株価低迷、低金利国債のデフォルト不安で保険料運用が利差損となったものを、シサで埋め合わせて最終的な利益を出している構造であるという。問題は日本の生命保険会社が、厚生労働者が国民全体の死亡率を算出した完全生命表より20%高い生保標準生命表をベースとして保険料を組み立てているということだ。つまり、実際の死亡率より高い確率で国民が死亡することを前提に、高い保険料を徴収し、実際の保障支払いとの差額利益を保険料の運用益のマイナスの補填としていることになる。

生保の広告に、手術1回○○万円、差額ベッド代1日7000円、7大疾病に対応などと医療保険の記載がある。万が一病気で入院にでもなったら大変であると、何か一つぐらい医療保険に入りたくなるのも人情である。ところが、本書では医療保険加入は必要ないというのだ。日本の社会保険制度はかなりよく出来ていて、健康保険で自己負担3割というのは周知の事実であるが、良く知られていない高額療養費とうものもある。これは、医療費が高額になった場合にその上限を設けているもので、実際に入院などした場合の自己負担医療費は1ヶ月11〜12万プラス差額ベッド代ということになる。新聞に海外で移植手術1000万という記事を見かけるが、そもそもこのような医療費は民間の生命保険会社では保障されないので考慮の対象外である。

著者は、米国の大学院を卒業後、生保業界の複雑なからくり、旧態依然とした利益構造にビジネスチャンスがあるとネット通販生保を企業する。そして、複雑な生命保険という商品を「死亡」、「医療」、「貯金」に分け、自分に必要な保障はどれかを見極めろと。また、この低金利の時代であれば、死亡保障は掛け捨て保険、貯金は給与天引きなどで自己で積み立てる方が良いとアドバイスしている。そして何よりも、自分で理解できない商品に手を出さず、理解可能の範囲で生命保険の複雑セット商品ではなく単品商品を購入すべきだと説いている。